商社についての考察 その6 内部取引

不定期連載・商社シリーズ。
今回は、内部取引について書き散らす昨今である。


前回のお話で、すごーく支店の独立心が強い、という話をした。
その裏返しといってはなんだが、
あんまり支店間だとが部門間のチームプレイってのは、
ついこないだまでなかったらしいのだが、
昨今はそうも言っていられなくなった。


一つには、何をするにも専門性が高くなったこと。
商材の専門性が高くなり、
支社の少ない人員で、個別の仕入先を
見つけることが難しくなってきた、だとか、
輸出・輸入が当たり前になると、
それを全部の人がやるのは非効率だ、だとか・・・
そういう「専門性」が、より問われる時代になってきたわけである。


もう一つは、企業の調達方法の変化である。
購買数量の決定は、相変わらず工場だが、
契約・単価交渉は本社一本で、というヤツである。
向こうが一本化しているからには、
商社側も窓口を一本にするほかない。


以上、二つの大きな理由で、共通の仕入部門であるとか、
輸入・輸出の専門部門というのが、商社の中にもできあがる。
で、メーカーならこういう部門はコストセンターとして
扱われることが多いのだが*1、商社はみなさん商売人。
利益を上げる部門として、それらの部門を認知するのである。


では、それらの部門に利益をあげてもらう仕掛けを考えよう。
一つは、支店間取引の形態である。
ある支店Aが仕入れた商材を、別の支店Bに転売、
で、転売先のB支店が得意先に販売、という手順を踏み、
支店Aから支店Bへの転売時に、
支店Aの利益をしっかりのっけて転売する、
という手順である。
これを、このまんま、共通仕入れ部門であるとか、
輸出入専門部署に当てはめればいい。


ところがこの方式、一つ困ったことがある。
払わなくてもいい税金を払うハメになることがあるのだ。


例えば、
仕入先→支店A→支店B→得意先
という流れがあるとする。
仕入先から仕入が50円、それを支店Aは60円で
支店Bに転売し、支店Bは得意先に80円で売った場合を考える。


まあ、当たり前なんだが、

  • 支店Aは50円で仕入、60円売り → 10円の利益。
  • 支店Bは60円で仕入、80円売り → 20円の利益。

合わせて、全社で30円の利益である。


ところが、支店Bが売りそこなって、在庫になってしまったとする。

  • 支店Aは50円で仕入、60円売り → 10円の利益。

これははそのまんま。
しかし、支店Bは、仕入はしたが、売れていないので、
売上原価にはできず、損も得もしていない状態。
B/S上は、10円分上増しされた評価額で、在庫が残る。
二つを足すと、10円の利益のみが発生していることになる。
会社としては、本当は利益がでていないのに、
利益が出ているように見えてしまうのだ。


こいつを大々的にやって、在庫を操作し利益を水増しすると
今話題の「粉飾決算」の古典的な手口になるし、
そういう意図がなくても、在庫分は、余計な税金を払うハメになる。
はてさて、困った、困った、というわけである。


一つの方法は、値段を二重に持つやり方。
メーカーでよく見かけるのが、工場から営業部隊に製品を渡すとき、
仕切り価格(SAPの設定用語だと、内部取引価格)を作っておいて、
管理会計上だけそれで評価し、財務上は、原価で渡したように見せる、
というやり方である。
しかし、このやり方は、基本的に商品の調達先が、
自社の工場だけという、メーカーだからできるわけで、
複数の仕入先から仕入れ、その移動平均で在庫の評価額を決める商社では、
2重に平均原価を算出することになり、手間がかかってしかたない。


そこで登場するのが、社内口銭制度である。
要するに、「売って・買った」にするからややこしいのであって、
原価で渡しておいて、手数料をもらったんだよーん、
という形で伝票を切れば、在庫金額も変わらないし、
支店Aはちゃんと利益を上げれるよね、という考え方である。
利益の付け替えルール、と言ってもいいのかもしれない。


ほうほう、頭いいねえ、というお話なのだが・・・
これがシステム化となると、あいたたた、ということになる。
1取引ごとの収支を見る、といった場合に、
この社内口銭ってどうやって見せたらいいの???
という話であるとか、部門間の振替伝票はどうやって起こそうか、
という話だったりするわけである。


で、次回は1取引ごとの収支、という話にフォーカスして、
システム化大変だねえ、というグチをこぼす回にしようかな、と、思う。

*1:例外は、京セラが本家のミニプロフィットセンター。技術者の発想というよりも、商売人の発想なんだろうと思う