在庫についての考察

超久しぶりに、内部統制ネタを書いてしまうのである。

テーマは「粉飾決算の可能性」
今までのエントリで言及した「典型的なシステム」での
粉飾の手口、っつうほどたいしたものではないが、
その可能性について考えてみたい。
粉飾の古典的な手口は、「在庫」。
これにとりあえず焦点を当ててみるのである。

まずは、とんでもなく簡略に、正確さよりもわかりやすさ優先で
なぜ在庫が粉飾の手段に使われるのか、について、説明。
そもそも利益とは、売上から原価を引いたものであり、
原価と在庫を足すと、仕入高になる。
売上と仕入高は、実際のお金と相手のあることだから、
数字を操作しにくい。
だから、在庫と原価との配分をちょっと変えれば、
利益を膨らましたり、萎ませたりすることができるわけである。

で、そんなことがシステム上でできるのか、
というのが、今回のテーマなのである。

まず登場してもらうのは、、ずいぶん前のエントリ
「いわゆる販売システム」で取り上げた販売システムである。
たこふじ いわゆる「販売・仕入管理システム」 - 肩書「シニアコンサルタント」のつぶやき

このシステムでは、売り買いのデータと、在庫の動きは別に管理されていて、
さらに、在庫の評価額は手動で登録することになっている。
つまり、めちゃくちゃ容易に、仕入高・売上高を買えずに、
在庫の評価額を変え、利益の操作ができてしまう。

もう一つ、「なめてはいかんマスタ整備」で取り上げた、
生産システムと販売システムが分かれていて、
生産システム上の品目が1なのにも関わらず、
販売システム上の品目が複数あるパターンにも登場してもらう。
なめてはいかん、マスタ整備 - 肩書「シニアコンサルタント」のつぶやき

このシステムの上での生産システムも販売システムも、
在庫の動きと連動する形で運用されていることがほとんどだから、
単体で見ると、上記のような利益操作は、
圧倒的にやりにくくなっているシステムである。

しかし、そのシステム間のつなぎに、恣意的な在庫評価を入れ込む余地がある。
生産システムでは一つの品目だったものを複数の品目に分けるため、
売れ筋の品目の原価と、在庫が多くなりそうな品目の原価を、
意図的に操作すれば、売上原価と在庫評価額を操作できてしまうのだ。

そもそも現場からあがってきた「仕様」をベースに作ったシステムでは、
柔軟性の名の下に、上記のような粉飾可能な仕様が
ゴロゴロしているのがある意味「普通」だと思う。
現場の人も、システムを作る人も、
別に悪意があってやったわけではないのだが、
結果的にそうなっているわけである。

翻って、ERPのなかから、私がメシの種にしている
R/3で、上記のような粉飾を試みてみよう。
仕入れの単価をでっち上げて発注を打てば同じだ、
という話もあるが、会計システムと完全に連携しているため、
本当にその金を支払うことになってしまい、仕入先にバレてしまう。
それがイヤなら、支払い保留にするしかないが、
明らかに怪しいデータとしてシステム上残るので、
上記システムに比べると、圧倒的に追跡しやすい*1
つまり、データがつながっているので、
ちょっと数字をいじろうと思うと、関係者が増えてしまい、
勢い会社ぐるみ・取引先を巻き込んで、にならざるを得ないのが、
ERPの仕組みだったりして、関係者が増えれば、
不正っつうのは、どんどんやりにくくなっていくのである。

このような事例を見ると、内部統制を考えるなら、
ERPの導入がよろしいのではないかなあ、
と、個人的には思うであった。

ちなみに、そもそもシステムじゃないよね〜という話はもちろんあって、
そっちのほうがもっと重要であるのは、私も同意であり、
また、そんな話も気が向いたら書こうと思うのである。

*1:蛇足だが、費用の発生時期をずらして損益を操作するのも古典である。これは、通常とは違う支払い条件の取引を見れば、大抵わかる。操作はしたが、仕入先には知られたくない。だから、そのずらした取引だけ支払条件を変え、入金の時期を揃えるのだ