たこふじ 月末在庫締め vs 都度確定

何故世界を代表するERPパッケージであるSAP R/3が、ごく普通の月次締め処理に対応していないのか?
それは、一言で言うと、採用している「方式」の違いである。


先に、三分法の由来について記述した。
つまりは、都度原価を確定させるのは手間がかかってやってられないので、
編み出された簡便法が三分法である、という位置づけであり、この簡便法の業務効率を上げるための
典型的なシステムが、オフコンなどでよく見かける、販売仕入管理システムなのである。
これを、「月末在庫締め方式」と便宜的に呼ぶことにする。


ところが、SAP R/3を作ったドイツ人は、上記のような考えをとらなかった。
システムを導入するのだから、「手間がかかってやってられない」こともやれるに違いない!!という、
多少原理主義的な立場にたってシステムをくみ上げてしまったのである。
いわば、「都度確定方式」である。


たとえば、再度フライドポテトを例にとってみよう。
細かいことを言えば、フライドポテトの原価はジャガイモだけではないのだが、
ここでは簡便的に、フライドポテトを売ったというのは、ジャガイモを売ったことだ、
という前提で考えてみる。
(細かい人向けの注意書き:以後の説明は、実際にはSD/MMを使った場合で、原価の方式として
移動平均原価」を採用した場合の説明である。)


まず、仕入れをする。10Kg4000円で買ったとしよう。
このときR/3上の仕訳は、以下のようになる。
 在庫 4000円 10KG ジャガイモ / 現金 4000円
R/3は、このとき自動でジャガイモの単価計算をする。このときの単価は、当然1kgあたり400円である。
そして、5Kgを使って、その売上が3800円あがったとしよう。
そのときの仕訳は、以下のようになる。
 売上原価 2000円 / 在庫 2000円 5Kg ジャガイモ
 現金 3800円 / 売上 3800円 ジャガイモ
もちろん、売上原価は、400円x5Kgで計算した結果である。


今、在庫は2000円で、数量は5Kgである。
今度は、さらに5Kgを仕入れる。値段は、2400円。
すると、仕訳が
 在庫 2400円 5Kg ジャガイモ / 現金 2400円
と、起こる。
さらにR/3は自動で、在庫金額200円+仕入高2400円・在庫数量5Kg+仕入数量5kgを使って、
1Kgあたり単価440円を計算する。
今度売れたときは、この440円という単価をつかって、原価を計算するわけである。


つまり、R/3は、手作業では使われるはずのない、都度移動平均原価法を採用することにより、
「原価は月末に確定させる」という常識をひっくり返してしまったのだ。
(そういえば、私に生産管理の基礎知識を教えてくれたM社の方は、
R/3を作ったヤツは、絶対現場を知らずに作った学者あがりに違いない、と言っていた。
確かにこうやってみると、現場からは生まれそうにない発想である)


この方式をとれば、都度都度のモノの動きとデータをきちんとあわせれば、
在庫の単価計算および月末繰越処理自体が必要なくなってしまう。
まあ、月末に処理せざるを得ない、光熱費などの費用があるため、
月末処理自体がなくなるわけではないが、かなりの手間が軽減されるであろう。


さて、では、月末在庫締め方式と都度確定方式、どちらのほうが優位なのか?
月末の在庫単価計算を自動で行うのと、都度自動で行って、それ自体をなくしたのとでは、
月末業務負荷軽減の観点では、どちらもほとんど同じだ。
現場にしてみれば、都度都度の在庫の動きを入力しなければいけないので、
都度確定方式のほうが、負荷は増える、と感じるかもしれない。


しかしながら、たこふじオーナーたる私にとっては、現場に多少泣いてもらっても、
都度確定方式にするほうが、メリットがあるのである。


そのメリットとは?そいつは次回にしよう。