目的と手段 取り違えをおこさないために

目的と手段を取り違えてはいけない。
よく言われることである。
しかし、目的と手段を取り違えていることに気づくのは難しい。


以前、出来上がったあるシステムを他の拠点に展開するプロジェクトを
スタートさせるにあたって、エンドユーザへの一回目の説明会を開催する運びとなった。
私は、その場での説明をメンバーに任せた。
モノとしては出来上がっているものを、他の拠点に展開するプロジェクトだから、
「既存の資料が使えるだろうから、それを使ってまとめておいて」
と、手段の提示を行ったわけである。
そして、前日なり前々日なりに、レビューをしてみると、
きちっと、既存の資料を抜粋した説明資料が出来上がってきた。


さて、いつも私は悩むのである。
よくできたね、と、ほめるべきなのか?
目的と手段を取り違えているよ、と、小言を言うべきなのか?
そして、私はいつも後者を選び、メンバーからの強い反発に遭遇するのである。


何が気に入らないのか、というと、確かにメンバーのやったことは、
私の指示通りのようである。
しかし、そもそも既存資料というのは、前回のプロジェクトで使ったものである。
ということは、それを使った結果どうだったのか、という知見が
蓄積されているはずである。
第一回の説明会を行うにあたっては、エンドユーザにより納得してもらう、
ということが非常に重要になるわけであるから、
既存の資料にその知見を加えて、より納得してもらえるような資料を
作ってほしいわけである。
それが、「既存の資料を使う」という手段の提示だったつもりだが、
「知見の蓄積の反映は指示になかった」から、メンバーは、
そのまんまの資料を作ってきた、と、言うわけである。


じゃあ、「知見の蓄積の反映」を、そのメンバーに指示していたら、
ちゃんとしたものができてくるか、というと、ちょっとそれも怪しい。
そもそも、説明会をするにあたって、何を大事にするべきか、
ということを考える思考が欠落しているのである。
その状態で、「知見の蓄積の反映」を指示したところで、
どこの部分を強調するべきか、というポイントの絞りができるわけがないのである。
そういう意味で、目的と手段を取り違えないためには、

  1. 目的を明確にする
  2. 目的を達成するために大事なことがなにかを考える
  3. 大事なことを実現するための手段を考える

というステップが不可欠なのである。
これは、全ての物事を考えるにあたっての基本的なアプローチで、
2番目の取り違いが、世の中本当に多いのである。
そもそも、「考える」というステップをすっ飛ばしている例すらある。


企業参謀―戦略的思考とはなにか

企業参謀―戦略的思考とはなにか

この本は、確かにPPMの説明だとか、戦略の立て方だとかが書いてある本である。
しかし、本当の主題は、KFS*1の設定の大切さ(上記ステップの2番)で、
それを設定することこそが、副題となっている「戦略的思考」の、一番重要な点なのだろう。


ちなみに、上記の例の説明会、やっぱり失敗した。
ユーザの反応が、「なんだかよくわからないな」だったのである。
しかし、当の担当者は、よくできた、と、思っているのである。
「正しい情報を漏れなく言うことができたから」なのである。
KSF、つまり2番目のステップにおける、「大事なこと」の定義が全く違うのだ。
はてさて・・・戦略的思考への道は、長く険しいのである。

*1:Key Factor of Success 多分マッキンゼー用語だと思う。一般的には、CSF:Critical Success Factorのほうが通りがいい