たこふじ 「固定費(間接費)」という迷宮

さて、今回は「固定費(間接費)」について話をしようとおもう。
どっちかというと、これは、「スキル」というよりも、私の「意見」といったほうが、強い回になりそうだが。


原価計算に関しては、もう教科書中の教科書、岡本先生著書の「原価計算」という、
総ページ980ページ、定価1万円くらいするとんでもない本がある。
原価計算の勉強をしたいんですけど」
と、ちょっと知っている人に聞けば、
「この一冊で大丈夫だよ。読めたらね」
という、励ましともイジメともとれる発言と共に薦められるという本である。
また、プロジェクト内で、自分を原価計算スペシャリストだよ、ということをアピールするために、
カバーもつけずにこの本を自分の机の上においておく、ちょっとした勘違いさんまで生んでしまう、
まあ、すごく影響力のある本である。


中身を読めば、それも納得。
学者さんによくありがちな理論一辺倒の記述ではなく、実務としてどうだ、ということまで網羅し、
さらに活動基準原価計算についても章を設けるなど、改訂を繰り返すことで、記述に古臭さも感じない。
いやはや、えらい人もいたもんである。


ただ、中身を見てみると、実は、比例費の把握についての箇所は、全体1/4も記述がない。
そのほとんどは、「固定費(間接費)」は、どうやって製品原価に反映させるのか、
という命題について語っている、と、いっても過言ではない。
で、白状するが、私はこの本に書いてある固定費(間接費)の配賦理論、8割がたよくわからんのである。
計算方法はわかるが、どう役に立つのかがわからない、というとろこである。
固定費なんて、部門ごとにまとめたあとは、その固定費を製造高比率でばら撒いてしまえば、
それでいいじゃないか、なんて、本気で思うのである。


しかし、岡本先生はじめ、ほとんどの原価計算の本は、「それでは妥当性のある値が得られない」と、書かれている。
理由としては、
「生産量が確定してからでないと割り振れない。値の確定が遅くなる」
「値が荒すぎる」
ということになっている。
で、生産量が確定してからでないと割り振れないから、いわば見込み値を使う、というような記述がある。


しかし・・・である。
結局見込み値を使うなら、生産量が確定してからでないと割り振れないのは一緒である。
値が荒すぎるのは、感覚の問題である。
そりゃ、たとえば製品Aを作っている人の賃金を、まったく違う製品Bの原価に割り振るのは、
確かに変だと思うが、それならば、部門ごとに集計することで回避すればすむことである。


そもそも、予算の統制という立場から考えると、固定費は発生額の制御と作った数量の制御しか、制御可能な項目はない。
しかも、後者はスループット会計の考えでは、「売った数量」にするべきだ、という意見が強い。
つまり、工場の評価指標ではなく、営業の評価指標にするべきだ、というお話がある。
ということは、固定費(間接費)の配賦基準は、製品部門ごとの売上数量にしておけばすむことで、
固定費の配賦基準に凝るなんてのは、無駄以外のなにものでもない、というのが、私の意見である。


たとえば、たこ焼きのメニューを考えるとき、
「このメニューは、普通のたこ焼きよりも手間がかかるから、原価は高くしておこう」
という基準を、きちんと考えなさい、と、教科書は語るのだが、
「そもそも手間がかかるからって、本当に出て行くお金が増えるわけではないから、一緒でいいんだよ」
という考えのほうがいいのではないか、と、思うのである。


「手間がかかる」から本当に出て行くお金が増える(もしくは入るお金がすくなくなる)場合は、以下の場合である。


お客がひっきりなしにやってきて、ずーとたこ焼きを焼いている
→「手間がかかる」から、最大生産たこ焼き数が少なくなる
→売上が減るから原価を高くしないとペイしないよね〜これ、という話になる
つまり、稼働率が100%に近くなり、いわゆる「暇な時間」ができなくなったときに、発生するわけである。
うーん、高度成長期ならともかく、今、こういう前提(稼働率が100%近い)を立てれるだろうか?


凝った固定費(間接費)を取ることで、必要以上の手間をかけているところを散見する。
情報の収集と、予実対比の帳票、2つの手間が発生するが、その理論を理解する人は少ない。
(岡本先生の本を本当に読みこなせるヤツがいかほどいるのだろうか・・・)
さらに、そもそもその理論の前提も、現実とは異なっている。
しかしながら、「前から作られているから」「教科書に書いてあるから」、該当のデータの収集が続けられ、
管理帳票作成のためのシステム開発工数が膨らむ。
システム開発および通常のオペレーション、両方に無駄としか思えないコストが発生しているのだ。
固定費(間接費)の測定が大きな意味を持つのは、特注品を作るような会社や、サービス業ぐらいだろう。


ある程度の妥当性は必要だが、凝った固定費(間接費)の配賦は、高度成長期の遺産であり、
そこをシンプルにすることで、システム開発も通常のオペレーション負荷も下げましょう、
というのが、今回のお話の結論である。

原価計算

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