いまさらの「もしドラ」・・・これはバッドエンドなのか?

すんげ〜今さらなんですが、実際。ちょっと書いてみようかと思うわけですな。
みんなが知ってる「もしドラ」ですよ。


読んだのは、3ヶ月ほど前。ミリオンセラーね〜。
まあ、売れること自体は納得なんですが・・・

気に入らない

んですよね〜実際

以下、ネタばれ注意

ドラッガーを使って、高校野球の女子マネージャがチームを立て直す、というのが基本的なお話で、昔なつかしタッチ的なスパイスっていうのか、そんなのが入っているこの本。
当然、ドラッガー単品でも、よくあるストーリー単品でもモノにはなっていなかったんだろうけれども、それを組み合わせるとミリオンセラー。そういう組み合わせの妙ってのは単純にすげーな〜、と、思うわけですよ。

ドラッガーの入門書としてみれば、非常に敷居が低くていい感じだと思ってます。ええ。
なので、読んでみてどうだった?と、人から聞かれれば、読みやすくていい本だよ〜、そう答えるわけですな。いや、実際いい本だと思うんですよ。

ですけどね〜。気に入らないのは、この一点。最後のシーン。

「甲子園では、どんな野球をしたいですか?」
「それを、みなさんに聞きたいのです」

はああああああああ??????
何いっちゃってるんでしたっけぇぇぇ???????

「顧客の声を聞く」ってさあ・・・

いや、文脈としてはですよ。
ドラッガーは、組織には目的、目標があって、それの設定に関して、一番重要なのは、顧客の声だ、という話は実際にあるわけですよ。

しかしですよ。

これは、目標の設定のためのインプットであって、目標自体を顧客に決めてもらう、なんて話では決してない!と、思うわけなんです。

いや、その「顧客」ってのが、狭いセグメントの中で、非常に明確である、って話ならわかりますよ。その顧客の満足度が、組織の存続条件そのものになってくるわけですから。受託開発しているのに、要件を出すユーザの話を聞かない、なんてことがある?というお話なわけです。

ところが、組織が大きくなり、多くの人々が「顧客」として出てくると、話が違うわけですな。個々、別々に、好きなことを言い始めるわけです。
で、その最大公約数に対して何かをしようと思うと、まあ、要するに、「普通」の話しか出てこなくなるわけです。その「普通」の話を単にやる、というのが、組織の目的、目標なんですか?というのが、私が違和感を持つところなわけです。

だってさあ、「普通」の話を単にやるっていて、イノベーションなんて生まれるわけないじゃないですか。

顧客は、今あるものしか、イメージできないわけですよ。じゃあ、その最大公約数の「普通」の話を真摯に聞いたところで、その延長線上にあるのは、今あるものの精度を高めることしかないわけで。
実際、日本企業は得意ですな、そういうの。そういう意味では、この本の「顧客の声を聞く」ということを、緻密に実践している。

しかし、結果、iPhoneだのiPadだが出てくると、全部持ってかれる。
新しいものが出てきて、顧客がそちらを選ぶと、顧客の最大公約数の言うこと自体が変わるわけです。もちろん、Appleは顧客を無視していたわけではないと思うし、顧客の声をインプットにしていたと思うんですが、それとは別の何かを提示しているわけです。


もしドラ」の容易に想像できるその後

で、「もしドラ」に戻ると。

甲子園に出場を決め、注目度があがった段階で、顧客としては大きく広がり、全国区。この段階では、顧客の最大公約数を聞いてしまえば、ごく普通の話しか出てこない。しかし、「普通の話」の精度を高めるには、チームとしての基盤は明らかに他のチームより劣る。そういう状況で、みんなの声を聞いちゃうと、元のなんの特徴もないチームに逆戻りしちゃう危険のほうがはるかに高いわけですな。
それって、面白いことをやってたベンチャーっぽいところが、えいっと大きくなったときに、広がった顧客層の言うことを聞いてるうちに、結果として没個性になってしまい、資金力に勝る旧来の企業にぶっつぶされる、という、とってもよく見る風景をトレースしているにすぎないわけで。

そう思うと。最後に「それをみなさんに聞きたい」として、この話を締めてしまうのには、猛烈な違和感があるわけなんですよ、私は。

まあ、そういう現実を踏まえたうえで、実はハッピーエンドではないバッドエンドのお話でした〜というところまで、著者が意図して書いてるんなら、ただただ、脱帽でございますが・・・