しんどいよ、社長さん

「儲かる仕組み」をつくりなさい----落ちこぼれ企業が「勝ち残る」ために

「儲かる仕組み」をつくりなさい----落ちこぼれ企業が「勝ち残る」ために

なんというか、批評・評価のとっても難しい本である。
しかし、取り上げるに値しない駄本であるというには、
無視できないなにかがあるように思う。


本の題名は「儲かる仕組みをつくりなさい」なんだが、
中を読むと、「社長が動くと社員は動く」のほうが、
題としてはしっくりくるかなあ、と思う。
乱暴に要約すると、「どうやったら怠け者は働くようになるのか?」
という考察を繰り広げ、その解法を提示するしている本である。


会社はどうすれば儲かるのか?
社員が社長の価値観を共有し、同業他社よりよく働き、
顧客満足をより獲得したときに儲かる。
どうやってそれを実現するか?
コミュニケーション・ムチ・アメの三点セットで、社員を働かせる。
具体的には?
呑み会をはじめとする、アナログなコミュニケーションと
ボイスメール、e-mailをはじめとするデジタルなコミュニケーションを
組み合わせて、「社長は常に社員を見ている」という実感を与え、
価値観の共有化と、よく働くモチベーションにつなげる。
また、情報の公開により、余計な疑心暗鬼を生まないように配慮する。
罰金という強制力を使って、勉強会、委員会活動に無理やり参加させる。
ただし、その結果をフィードバックする機会を必ず設け、
相対評価によってその結果如何で、ボーナス・賞金が出るようにする。
・・・とまあ、こんな感じの本なのである。
まあ、コンサルタントが読んで、クライアントにえらそうに話するネタには
なりそうにない本である。


この本のAmazonレビューを見ると、とっても極端である。
点数も極端だが、レビュー内容も極端だ。
大別すると、
1.中身は当たり前のことばかり。最悪。
2.目からウロコが落ちた。最高。
3.前の本と一緒。新しいところなし。
の三パターンである。


まあ、三パターン目の書評は無視でいい。
同じことを別の本で何度も書くことは、悪いこととは思わない。*1
で、1と2なのだが、私はどちらかというと、2のほうに近い感想を持っている。
結構感心してしまったのである。


たとえば、呑み会をする、のくだり。
多分、1の書評の人は、呑み会なんて「当たり前」と思うので、そういう書評になるのだろう。
では、社長と価値観を共有するために、他にどういう方法があるのか?
それが書いていないから当たり前のことしか書いていない本なんだ、
とまあ、そういう話なんだろうな、と、思うのである。


しかし、この本に私が価値を見出しているのは、
普通なら、「呑み会なんて主催しても、若い人はこないんだよね」で終わるところを、
「こうすればくる」というところまで踏み込んでいるところである。
賞金を出したり、罰金を設定したり、その中身は「俗」そのものだが、
「来ないなら仕方ない」と突き放すのではなく、
「どうやったら来るのか?(もちろん、価値観の共有という目的を損なわず)」
ということを考えた上での具体論である。


人を育てるという経営者は多いが、本当に人に興味が無ければ、
呑み会にしても勉強会にしても「来ないなら仕方ない」と突き放してしまう。
しかし、この社長さんは、「来ないなら仕方ない」と言った瞬間、儲からないよ、
「どうしたら来るのか」を、考えるのが社長の仕事なんだよ、
とまあ、そうおっしゃるわけである。
つまり、「来ないから仕方ない」、ひいては、「あいつはわからんから」で
思考をとめず、わからんヤツを理解し、動かす方法を考えろ、
と、おっしゃっているわけだ。


これを本当にやろうとしたら大変である。
自分を振り返っても、「あの人はわからんから」と、
ぶった切っている人は多数いるわけである。
そっちのほうが楽だから。
しかし、社長たるもの、いや、人の上に立とうとするものは、
ぶった切ってはいかん、と、著者の社長さんは説くのである。
コミュニケーションを取るべし!!と説くのである。
こんな方法でコミュニケーションは取れるじゃないか、簡単だろ?
そう言ってくるのである。


しかし、ボイスメール使おうが、IT使って数値かしようが、
コミュニケーションは効率化はするのだろうが、
人とかかわるしんどさは、やっぱり変わらないわけである。
いやはや、「誰にでもできる」「やらないだけだ」と、社長さんおっしゃいますが、
なかなか、なかなか・・・
まあ、がんばってみますけどね、社長じゃないけど。

*1:昔のビジネス書なんて、よっぽどのことがないと書店に並ばない。自分の主張を世間に問うには、定期的に同じことを多少にアレンジを加えて本にするのが、もっとも効率的だ