なめてはいかん、マスタ整備

とりあえず、公開されているSAPPHIRE資料は、一通り見終わった。
なんというか、後半は、見るのに疲れたこともあってか、
どうも、「これは」という資料は見出せなかった。


ただ、ちょっと面白い・・・と言っては、失礼にあたるかもしれないが、
典型的な苦労があったんだろうな、思える導入事例があった。
ちょっとどれだったか忘れてしまったのだが、
そして、標準原価への移行を目指して、R/3の導入を決断し、
カットオーバーがかなり遅れたのだが、
すべての延期のタイミングで、「マスタ整備遅れ」が原因となった、
という記述があったのである。


ここから先は憶測である。
おそらく、こんなことが起こったのではないか。
まず、品目マスタを定義する。
これは、売る製品一つ一つについて、定義していく。
そして、各工場のシステムで、バラバラに持っている原価情報をかき集め、BOMを作る。
標準原価を作るために、積み上げ計算をやってみる。
BOMのない品目が圧倒的な数量発生している現実に直面する。


これは、販売管理システムと生産管理(原価管理)システムが別で、
ちょっと専門品よりの品物を取り扱っている企業に、
R/3を導入しようとすると、かなりの確立で発生するトラブルである。
今までちゃーんと業務が動いているシステムから、
マスタデータを持ってきたはずなのに、
マスタデータが足りない、という事態が発生してしまうのだ。
足りないのに、どうして今まで動いてきたんだ??


調査を開始する。
そもそもBOMがない、ということは、
生産管理システムが持っている品目数よりも、
販売管理システムが持っている品目数のほうが多い、
ということである。
では、販売管理システムにしかない品目は、どうやって作っていたのか?


すると、生産管理システムが吐き出すBOMとは違う部品構成で、
製品を作っていることが判明する。
つまり、ある製品Aがあるとする。
そのAの、ちょっとしたスペック違いを作ったとする。
これをA'と便宜上呼ぶ。
製造の観点からみると、それはAと大差ない品物である。
したがって、Aを作ったことにして、スペック違いによる構成部品の違いは、
「構成差異」という原価上の差異にしてしまって、
いっちょ上がりにするのである。


しかし、販売するときには、AとA'は、明確に別の製品である。
したがって、販売管理システムに「入庫」を行うときには、
AとA'は別の製品と認識して、入庫を行う。
このようにして、
「Aを20個作った」生産管理システムと、
「Aが8個、A'が12個作られた」と認識する販売管理システムが、
両立してしまうのである。


当然、このようなことは、生産管理と販売管理が一体となっているR/3では許されない。
仕方がないので、A'のBOMを作成しようとする。
が、当然、上記のような理由で、生産管理システムにはA'のBOM情報はない。
どこにあるのか?
設計者の机の中にあるのである。


ということで、エラーデータをつぶすには、
日々業務を行っている設計者に頼み込み、
残業・休日出勤お構いなしで、派生製品のBOMを作ってもらわなければならない。
しかし、なお悪いことに、このような派生製品は、
大抵ユーザから見たお客のリクエストによって発生する。
専門品を取り扱っているからなおのこと、
スペック違い(セミオーダーメイド)は、ガンガン発生する。
つまり、
「品目の新規登録はしばらくやめて、エラーデータをつぶすのを優先してください!!」
と、頼んでも、
「そんなことやったら、他の会社にシェアとられて、会社つぶれちゃうよ」
という、反論できない反応に直面し、エラーデータは、日々増殖していくのである。


繰り返すが、これは憶測である。
けど、あんまり外れてないんじゃないかなあ。
まあ、一般論になるのだが、マスタ整備はユーザの仕事だから、なんて言わずに、
現実的な作業プランを作るのも、コンサルの仕事として、
ちゃんと認識しておいたほうがいいのは、間違いないのであった。