原価オタクに捧げる本2冊

実は、今、また一つ新手のRFPを眺めているのだが・・・
どうやら、この企業にも、原価オタクが生息しているようである。
製造指図・工程ごとに時間管理をやって、それを元に工程改善と配賦をするんだそうである。
まあ、要件としては一般的なのだが、なんとも苦笑を禁じえないところである。


いや、なんでこの一般的な要件がいけないか、というと
そんな一箇所の工程にかかる時間をいくら改善したところで、全体のパフォーマンスが
プラスになるとは限らない、という点を無視するところが、もう一つなのである。
このような管理会計基準を取ってしまうと、全体を俯瞰した工程改善なんつーのを
阻害してしまう可能性が、ビンビンにあるのである。


全体のパフォーマンスアップと、個別のパフォーマンスアップとは、必ずしも一致しない。
例えば、極端な例でいくと、ある工程の効率を上げるために、品質点検の項目をカットしたとする。
その工程の成績は当然プラスに出る。しかし、後続工程での歩留まりが悪化する。
原価計算上は、後続工程の歩留まり(つまり後続工程の責任)のように見えてしまうから、
そのライン長はたまったものではない。
「お前のとこのせいで悪くなってるんだ」「いや、ウチの改善には必要なんだ」
という、泥試合の始まりである。


当然このような非生産的なことを防ぐためには、一連の生産活動全体を俯瞰し、
どこが悪いのかについて知恵を絞ることが必要である。
ところが、評価が「工程ごと」になっていると、全体最適を考えた改善が単一工程で見ると
後退になる可能性が、やはりあるわけである。
そうなると、この改善案が実行に移される可能性はほぼゼロである。
誰が自分の評価を下げるような「改善案」の実行を、コミットするものか。


以上の論点を持って、古典的工程ごと固定費配賦計算は、はっきりと「悪」なのである。
工程改善と原価の世界はばっちり違うもの!!と認識し、
原価は、税務署が納得するくらいの適当さで計算しておき、
工程改善をしたければ、現場に行って、順番に工程を見て知恵を絞ればいいのである。
あがってくる「数字」だけを見て、工程改善を考えるなんて、手抜きもいいところなのである。


しかし、以前にも書いたが、R/3は原価オタクの感性をビンビンに刺激するので、
人手による作業も機械による作業も、別の賃率を設定し、時間の入力さえしてやれば、
「非常に正確な」「固定費の配賦が可能」なのである。
そうなると、RFPに対する提案を考える私としては、ハムレット的な心境になっていくのである。
とりあえず、自分の食い扶持を確保するために、「ばっちりできますよ〜」という
提案にしておくか・・・
「固定費計算なんて、簡単にしましょうよ〜」という話を盛り込んでしまうか・・・
しかし、この葛藤は、目の前にある住宅ローンという現実の前に、
前者を選ぶことで、大抵は決着していくのである。


以下は、上記のようなお話のより詳しい解説本2冊である。
が、正直積極的にお勧めはできない。
両方とも、かなり難しい、というか、はっきり言って読みにくいのである。
学者さんの書く文章っつうのは、なんともかんとも・・・である。
この点は、古典的原価管理の大御所、岡本先生の「原価計算」を見習ってほしいものである。

トヨタシステムと管理会計―全体最適経営システムの再構築をめざして

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