電話文化と役割分担

ちょっと面白い対比があったので、今日はそいつをご紹介。
まず一冊目はこちら。

トヨタの役員秘書が見た トヨタのできる人の仕事ぶり

トヨタの役員秘書が見た トヨタのできる人の仕事ぶり

で、もう一冊はこちら。

頭がいい人、悪い人の仕事術

頭がいい人、悪い人の仕事術

どちらも、「できる人」の話なのだが、「電話」に対する考え方が全く違うのだ。


まず、前者の「トヨタの〜」における電話の位置付けはこうだ。
電話は積極的に取るべし。なぜなら・・・
1.電話を取り、自分で調べることで業務知識の幅が広がる
2.現場からの生の声を拾い上げることができる
結果、できる人は誰よりも電話を取る。


そして、後者の「頭のいい人〜」における電話の位置付けはこうだ。
電話は最小限にすべし。なぜなら・・・
1.電話を取ることで思考が停止する
2.雑談は時間の無駄の最たるものである
結果、できる人は電話を選別し、場合によってはとらない。


これは、そもそもの話として、日本とそのほかの諸国との電話文化の違いをわかっていないと、
特に「頭のいい人〜」における主張は、ピンぼけになる可能性がある。
つまり、「個人への連絡手段」なのか、「知りたいことを知っている誰かへの連絡手段」なのかの違いである。


諸外国の電話の位置付けは、「個人への連絡手段」なのである。
だから、外資系の企業では、例えば部長の電話が鳴っていても、当人もしくは秘書以外はとってはいけない。
さらに言うと、「役割分担」が明確に決まっているため、「個人への連絡手段」イコール「知っている人への連絡手段」なのである。
ご当人以外は、「役割ではないから」知らないのだ。
だから、当人が休むと仕事は全部1日とまってしまう、なんてことが、平気で起こるのである。
某超有名企業のイギリス工場で2週間出荷がとまったことがあったが、
原因は、出荷担当者が風邪をこじらせて寝込んだからだった、なんてことが、
私にも実体験としてあったのである。


それに対して、日本において電話は、「知りたいことを知っている誰かへの連絡手段」である。
日本において、「カスタマーサポート」に電話して、「担当がいないのでわかりません」と
答えられることはまずない。
通常の企業に電話しても、当人がいなくても、代理の誰かがきちんと電話の応対をしてくれるのである。
私も、IP電話の導入事例セミナーで初めて知ったのだが、当たり前に思っていた
電話の「転送機能」というヤツは、実は、日本オリジナルの仕掛けなのだ。
逆に諸外国では、人の電話を取ることは御法度であり、「転送機能」という発想はありえない。


このバックボーンを知らずして、「頭のいい人〜」の内容を鵜呑みにすると、単なる勘違いさんのできあがりである。
というか、「役割分担」ではなく、「多能工化」こそが効率Upのキーである、と信じる私にとって、
「役割分担の明確化」をベースに、「いらない仕事を切って行く」スタイルの、外国製仕事のやり方本は、
ことごとく生理的に受け付けないのである。
よほど、「トヨタ〜」で紹介されている、「業務の幅を広げるために、電話は積極的に取るべき」
という主張のほうに引かれるのである。
さらに、その前提条件として、「資料の整理」つまり、「情報の共有化」(KMの第一歩)が必要である、
という主張に、大きく、大きく納得するのである。


大体、欧米においても昨今、KMやCRMの重要性については認知されている。
しかし、両者とも、実は「役割分担」前提では成り立たない仕組みである。
例えば、KMは、そもそも自分の業務を公開する、もしくは、他人の業務の内容を把握する、
というのが第一歩だし、CRMの成功事例を見ると、お客様が電話をかけてきたときに、
担当がいなくても、その要件がわかるようにデータベース化しておく、なんて話が書いてあるのである。
トヨタ〜」を読むと、んなもんは、日本企業では普通に行われてきたことなのが良くわかり、
その文化を前提とした時の「できる人」の行動パターンが、まったく違うものになることがわかる。


まあ、しかし、欧米の皆さん自らが、「役割分担」の弊害に気づきはじめているときに、
その「役割分担」を前提に書かれた、自分の仕事の効率のみを優先する本が、日本でベストセラーになっている。
なんともはや、とほほな世の中である。