専門家から多能工へ

さて、最後となった問題が、
3.専門スキルが違う人が集まっているという現実を無視している
という問題に関してである。


確かに、今まで私が話しをしてきたプロジェクトマネジメント手法は、そもそもメンバーが多能工であり、
ある程度代替が利く、という状態を前提にしている。
そうでなければ、「役割分担を行わずタスクを分担する」という方針にたったとしても、
結局はそのタスクができるスキルを持った人に仕事があつまり、役割分担を行ったのと同じ結果になる。


確かに、この批判はまっとうである。
専門スキルを無視してタスクのアサインはできない。
多能工がいつもいるとは限らない。
しかし、いなければ作ってしまえばいいのだ。


私の考えでは、プロジェクトを開始した時点と終了した時点では、当然スキルセットが増えていなければならない。
そうしないと、その人の市場価値があがらないからだ。
ということは、プロジェクトの中で、新しいスキルを身につけることが必要になる。
要するに、今までとは違う専門分野の箇所を、意識的に実行できる環境が必要なのだ。


「役割分担をせずタスクを分担する」という方針なら、自分が手に入れたいスキルの部分の仕事を、
自分が手を上げることで、実施できるわけである。
結果、プロジェクトが進むにつれて、メンバーが多能工化していくわけである。


とはいえ、当然問題もある。
・その道の専門家がやるほうが効率がいい
・誰の興味もない仕事がほったらかしにされる危険がある


ひとつめの問題に関しては、これまでもコメントの繰り返しになるが、ひとつのタスクの効率性よりも、
何かが遅れたときのほかの人の待ち時間のほうが、圧倒的にプロジェクトに対してはロスである。
多少効率が悪くとも、遅れそうになったら、複数の人間がやる(やれる)体制を作ったほうが、より効率的である。
ふたつめの問題、仕事ほったらかし、これが本当に起こったら、確かに大変である。
しかし、個人のタスクが問題なのではなく、プロジェクトの完遂こそが問題である、
という意識付けをしっかりすれば、人間というものは、そんなになまけものではない。
まあ、そのような問題が起こったら、最後の手段として、マネージャ権限による仕事のアサインをしてもいいだろう。
ただ、もし、そのような事態になった場合には、そもそもモチベーションの設定に失敗しているから、
プロジェクトの完遂は、黄色信号というところだろうが・・・


ただ、多能工化をこちらがいくら勧めても、実際にやろう、と、思ってくれる人でないと、難しい。
自分のスキルを伸ばすことに執着している人が必要なのだ。
決めつけたくはないが、年を経るごとに、新しい知識・技能を取得するモチベーションが下がっていくことは、
全体の傾向としては確かにある。
だから、私がプロジェクトメンバーのアサインの時に、最優先でリクエストするのは、
「新しいスキルを身につけようとしている人」
なのである。


蛇足になるが、SAP認定の資格、というのは、結果的に多能工化を難しくしているひとつの原因になっている。
実際、まともに導入作業ができる人で、「私はSDしかわかりません」なんて人はいない。
全部がリアルタイムにつながるシステムなのに、ひとつのモジュールのことしかわからない、
なんていうのは、本来ありえないはずなのだ。
だが、人員を調達する面でも、ユーザサイドに説明する上でも、この認定資格というものは、実は便利がいい。
「SD何名、MM何名が必要です」というヤツである。
結果として、「SDチーム」「MMチーム」なるものができ、それだけをやっていれば、すったもんだしながらも
プロジェクトが進んでいくものだから、それだけでOK、という風潮ができてしまう。
しかも、人材の調達がそういう条件だから、ひとつのモジュールしかしらなくても、次のプロジェクトに
アサインされてしまうわけである。
これでは、多能工化へのモチベーションも薄まってしまう。


まあ、自分も「SAP認定コンサルタント」として活動してるわけだから、あんまり大きなことは言えないが、
多能工化をモチベートする「なにか」の必要性は感じる。
たとえば、ABAP開発の基礎知識があるコンサルタントは、トータルコスト削減への貢献は、
多大なものがあると考えなければならないだろうが、それをアピールする手段が世間にはない。


・・・日をあらためて、R/3を導入する際の、コンサルタントに必要なスキルについて考えることにしよう。