外国産ERPは日本に合わないのか?

今回もリクルーター話なのである。
と、言っても、就職活動をしている人のほうではなく、
私の近くで仕事をしている、プライマリベンダーの若手の話である。



聞いたところによると、彼も一次選考のお手伝いということで、
入社志望の人たち相手に、グループディスカッションをやったらしい。
そのときに、
「外国産のERPは日本に合わない、と、聞きますが、どうなんでしょうか?」
という、質問を受けた。
保守担当をずっとしていた彼は、あうあうあわわ、となり、
「あうかあわないかは、会社ごとに違う」
という、わかったようなわからんようなコメントをして、その場を繕ったとのことである。
うーむ。


では、かわいそうな彼の代わりに、少し考察してみることにしよう。
外国産ERPは日本に合わないのか?


まず、現在を切り取ってみると、確実に合わない部分がある。
1つは、そもそも外国に類似の業態がないもの。
1つは、日本の商習慣で特徴的な価格の後決めの習慣。


外国に類似の業態がないものの代表例は、「商社」である。
実は、ないために、日本の商社にR/3を導入した際に、追加で作りこんだものを
「グローバルトレード」という名前で、SAPは出荷していたりする。
類似の話に、大規模小売店がある(ヨドバシカメラ)。
これらの事例は、ビジネスモデルに優位性があれば、ベストプラクティスとして、
SAP R/3を初めとするERPパッケージに採用される、ということを示している。


もうひとつの価格の後決めの習慣。
これは、R/3を導入する際に、現在とても大きな問題になる。
「価格は決めて受注するもの」「価格は決めて発注するもの」というR/3の大前提と、
「価格は月末(もしくは締め日)に決める」
という、一部日本の商習慣とのギャップは、なかなか埋まらない。
価格の一括補正機能というのはあるのだが、仮単価+調整価格という形で伝票が登録されるため、
ユーザサイドには、非常に評判が悪い。


ただ、これからもそうか、というと、おそらく時間が解決してくれる。
しかし、それは1番目の事例のように、R/3に取り込まれる形ではない。
このような商習慣が消滅することは、予想に難くないからである。


たとえば、Aという会社がモノを生産し、Bという会社に売り、Bという会社が最終消費者に売る、
という流れを考えてみる。
価格の後決めとは、
・Bが、最終消費者にモノを売る。
・Bは、売れた値段から、自分のマージンを引いて、それをAに支払う。
という構造である。
これは、最終消費者にいくらで売れるかはわからないから、最初にAからBへの値段を決めて、
Aがリスクを背負うよりも、売れた金額をもとにして、AからBへの価格を決めて、
利益もリスクも山分けにしましょう、という考え方が根底にある。
ようするに、AとBは仲良しなのだ。
一番わかりやすいのが「系列」で、系列間の取引では、大抵このような仕組みになっていた。
また、業界全体が、このような構造になっている場合もある。
石油業界が代表的な例で、石油関連商品は、大抵価格後決めになっている。


さて、では、このような構造は今後も続いていくのだろうか?
それはノーであろう。
実際系列はどんどん解体されている。
石油業界も規制緩和が進みはじめている。
そうすると、価格後決めの前提となっている、「みんなで仲良く」が崩れ、価格の後決めのリスクが高くなる。
上の例で言うと、Aの利益を吹き飛ばしてしまうほど、Bがマージンを取ってしまう、というリスクが高くなるのだ。
勢い、あらかじめ決めた条件での商売の比率がどんどん高くなる。


ということで、10年ほど前、R/3を初めとするERPパッケージが日本に上陸した時には、
「日本の商習慣に合わない」部分は、確かに相当量あった。
しかし、現在は、ベストプラクティスとしてパッケージに取り込まれたり、
環境の変化によって、合わない部分が消滅したりして、どんどん合わない部分はなくなってきている。
だから、「日本の商習慣に合わない」ことを理由に、外国産ERPは、淘汰されることはない。
逆に、「日本の商習慣に合わせた」ことをウリにしている国産ERPは、どんどん優位性がなくなっていく。


これを結論にしておこう。