「星野JAPAN」に見る「戦略の妥当性」

ご多分に漏れず・・・

半年ぶりの更新、皆様いかがお過ごしでしたでしょうか?
ということで、今回のお題は北京オリンピック尻馬企画、「星野JAPAN」でございますな、これが。
まあ、星野監督の采配どないやねん、という話はあるんですが、とはいえ、やっぱり「戦略」っぽいところに、無理と準備不足があったように思うわけです、今回は。
ということで、「戦略の妥当性」「戦略の実行精度」「戦略と人材」という観点で、星野JAPANの敗因分析をしてみようかなあ、と思うわけですな、はい。

まずは、選択した戦略をおさらい

まず、「星野JAPAN」がオリンピックにどういう戦略で望もうとしたのか、というところから、入ろうか、そう思う。
まあ、このこと自体は、監督本人も言ってることだし、明白、明白。「スモールベースボール」。
この「スモールベースボール」の定義は、一言でまとめると、堅い野球、守りの野球。つまり、

  • ランナーが出たら、きちんと送り、1点を取る
  • 守りを固め、その1点を守る

と、このような状態の野球を「スモールベースボール」、というわけだ。
細かいことを言えば違う部分もあるんだろうけど、そう大違いはしていない定義だと思う。

外部環境と戦略

さて、では、その「スモールベースボール」の戦略が正しいものだったのか?そして、それは結果論なのか、という点について、考察してみる。
スモールベースボールが強みを発揮する状況とはどういう状況かというと、当然1点を争うゲーム、ということになる。一線級のピッチャーが投げていて、どんないいバッターをそろえていても、なかなか打てない。そういう状況になれば、大砲ばっかり集めているよりも、「スモールベースボール」の強みが出てくる。一発ホームラン、みたいな点の取り方よりも、少ないチャンスをモノにする、というわけである。
で、結果を見てみると、、、おやおや?だいぶ様相が違いますよ。
決勝トーナメントに残った、上位4チームの直接対決で、3点以下の得点で試合が決まったのは、実は決勝の韓国-キューバ戦しかないじゃあないですか。それ以外の試合は、全部どちらかのチームが4点以上とっている。日本だけ打たれている、っつう話なら、みんな調子悪かったんだねえ、プレッシャーに弱いねえ、という話だけれど、アメリカ代表もボコボコに打たれているし、韓国も3点とられたら5点取り返す、みたいな試合を続けて金メダル。
そう、各国を代表するピッチャーはそうそう打てない、そういう前提が実は木っ端微塵に崩れているのである。
こりゃあ、確実に1点を取りに行く「スモールベースボール」は、どうにもこうにも分が悪い外部環境になってしまっていたわけなんですな、これが。
この原因がなにか、というと、やはり「一定しないストライクゾーン」ということになるんだろうなあ、と思う。
ストライクゾーンが一定しないと、投げているピッチャーは、どうしても少し内側を狙わざるを得ない。そうなると、打撃戦になりやすい環境が整うわけである。
ストライクゾーンの話が出たときに、「他のチームも同じ条件だ!!言い訳するな!!!」という単純な論調が多いが、その条件によりフィットするチーム編成は、「スモールベースボール」よりも打撃力がウリのチーム編成であり、よりパワーのあるチームが優位に立つのは間違いない。完全に星野JAPANは、外部環境を読み違えたのだ。
さて、ではこの外部環境の読み違え、これが結果論かどうか?
今回のオリンピックについては、審判は各国寄せ集めのアマ審判員であることは事前にわかっていたハズである。
そういう意味では、結果論ではなく、事前のリサーチ、想定が甘く、外部環境にあわない戦略を選択してしまった、と言わざるを得ないかな、と思うのである。


敗因その1:状況に合わない「スモールベースボール」という戦略を採用した

戦略の実行精度

さて、次に「スモールベースボール」の実行精度について考えてみたい。
結果としては、ピッチャーはバカスカ打たれるし、槍玉にあがるGG佐藤のエラーをはじめ、スモールベースボールの実現レベルは低かった、と、言わざるを得ない状況だった。
まあ、個々のプレーを取り上げるのも一興なんだけど、今回のテーマは「戦略の実行精度」なので、エラーの発生可能性を少なくするような施策を、組織としてちゃんとやったの?という点について考えてみる。
まずピッチャー。やはり指摘したいのは、国際球の問題だ。
いつもと違う球を使えば、コントロールに乱れが出るのは当然で、それに対する対応を、組織としてしっかりやっていないのは、実行精度という観点からは明らかにNGだ。通常のペナントレースでの使用球を国際球にするくらいの対応を、組織としてやるのは、当然だったのに、それをしなかった。これは、反省点であろうと思う。
次に守備について考えてみようと思う。
事故ってヤツは、いつもと違う状況におかれると起こりやすい、というのは、まあ、当たり前である。で、今回選ばれた選手にとっての「いつもと違う状況」とは何か。端的に、守備連携とデーゲームである。
昨今、ドーム球場も増えたため、デーゲームを青い空の下でやる、という機会は、かなり減っている。しかし、今回のオリンピック日程では、当然そのケースも多いわけで、それようの練習にどの程度の時間をかけたの?という話になるんだが、そんな練習をしている気配ってないね、という感じである。
守備連携もいい、とは、とても言えない状況だった。思えば、今回のコーチ陣、守備の職人といえる人がいなかった。これじゃあ、スモールベースボールの精度は上がらない。


敗因その2:「スモールベースボール」の生命線である精度向上への施策を打たなかった

戦略と人材

スモールベースボール」の要となるのは、実は外野守備力である。
1点をやらない、という状態においては、外野の間を抜けそうな打球を取る守備範囲であるとか、ランナー二塁のときにホームで刺す強靭な肩だとか、そういうものが絶対的な武器になる。
ところが。イチロー、福留、松井、引退したけど新庄、ちょっと格は違うが田口、こういった選手がメジャーに行ったり、引退したりしたあとのプロ野球界で、圧倒的な外野守備力を持った選手がいなくなってしまったように思われる。選手選考のときに、星野監督が「ライトを守れる人材が薄い」と言っていたが、そのこともこの裏づけとなる。一番肩の必要なポジションに、人材が薄いのだから。
そうなると、スモールベースボールは、かなり苦しくなる。2アウトランナー二塁において、シングルヒットが必ず1点では、「1点を守りきる」というポリシーは守れない。


敗因その3:「スモールベースボール」を支える人材がいなくなっている

WBCへの展望

さて、まあ、いろいろ書いてきたわけなのだが、じゃあ、WBCってどうなのよ、という話になると、結構私は楽観している。
一定しないストライクゾーンについてはかなり解消されるだろうし、商業主義のWBCでは、ナイターが試合の主体になるだろうし、わからないけれど、イチロー、福留も合流する。「スモールベースボール」が強みを出す環境と人材がそろう可能性が高いのだ。
すくなくとも、今回よりはまともな試合ができるだろう・・・て、是非やってよね、みなさん!!
ということで、今回はおしまいなのだ。